契約してないのに、なぜ払うのか?
9月の終わり、大津市の比良山系に近い別荘地。
朝露に濡れたアスファルトの道を、管理会社の軽トラックがゆっくりと走っていく。
街灯はまだ点いていて、排水溝には落ち葉が詰まっていた。

その土地には、誰も住んでいない。
建物もない。
ただ、雑草が伸び放題の区画がぽつんと残っている。

「父が買った土地なんです。いつか家族で使うって言ってたけど、結局そのままになってて…」
そう語るのは、土地を相続した40代の男性。
彼のもとに、管理会社から一通の請求書が届いた。

「年間36,000円の管理費をご負担ください」
契約はしていない。
建物も建てていない。
使ってもいない。
それでも、管理会社は「恩恵を受けている」と主張した。
彼は納得できず、裁判を起こした。

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判例解説:令和7年6月30日最高裁判決(別荘地管理費不当利得事件)

事案の概要
- 管理会社は、別荘地全体の道路・排水・街路灯・防犯パトロールなどを維持管理。
- 多くの所有者とは管理契約を締結していたが、被告(土地所有者)は契約していない。
- 管理会社は「土地の資産価値が維持されている=利益を受けている」として、管理費相当額の不当利得返還請求を提起。
争点
- 契約がないのに、費用負担を求めることはできるか?
- “利益を受けている”とみなす根拠は何か?
- 不当利得として返還義務が成立するか?
最高裁の判断

契約していなくても、管理費を支払う義務がある
理由
1.管理業務によって土地の価値が維持されている
→ 道路、排水、街灯、防犯などのインフラ整備が、土地の資産価値を保っている。
2.土地所有者はその利益を享受していると評価される
→ 実際に使っていなくても、所有しているだけで“恩恵”を受けていると判断。
3.契約自由の原則よりも、共同体の公平性が優先される場合がある
→ 他の所有者が管理費を払っている中で、一部の所有者だけが負担を免れるのは不公平。
4.不当利得が成立する
→ 法律上の原因なく利益を受けているため、管理費相当額の返還義務が認められる。
判例の意義と余韻
この判決は、契約自由の原則に一石を投じるものでした。
「契約していないから払わない」という個人の自由と、
「共同体の恩恵には相応の負担が必要」という公共性が、静かにぶつかり合ったのです。
琵琶湖のほとりにある、誰も住まない土地。
それでも、街灯は灯り、排水は流れ、誰かが見守っている。
その“誰か”に、あなたは含まれているのか──。
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地下二階会議室:こぱお博士 vs もふん補佐官
地下二階の会議室。
壁には「契約自由 vs 公共負担」と書かれたホワイトボード。
こぱお博士は湯気の立つマグカップを片手に、もふん補佐官は資料の束を抱えて入室。
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(資料を机にドサッと置きながら)
博士、例の別荘地管理費事件、最高裁が“契約してなくても払え”って言いましたよ。
これ、契約自由の原則を揺るがす判決じゃないですか?
(マグを傾けながら)
ふむ。契約してない者に義務を課す──
一見すると自由の侵害だが、共同体の維持には“ただ乗り”を防ぐ仕組みが必要だ。
君はどう思う、もふん氏?
(ホワイトボードに図を描きながら)
でも博士、土地を使ってないんですよ?建物もない。
恩恵を受けてるって、どこまで広げるんですか?
(指を立てて)
そこだ。
最高裁は“資産価値の維持”を利益と見た。
つまり、街灯が点いてる、道路が整備されてる──それだけで所有者は恩恵を受けていると判断したわけだ。
(眉をひそめて)
じゃあ、契約してない人にも請求できるってことですか?
それって、契約の意味が薄れません?
(静かに立ち上がり、ホワイトボードに“共同体の正義”と書く)
契約は個人の自由だ。
しかし、共同体の恩恵には相応の負担が伴う。
この判決は、“契約してないから払わない”という論理に、社会的責任の視点を持ち込んだのだよ。
(小声で)
でも博士…それって、ちょっと怖くないですか?
“使ってないのに払え”が通るなら、将来もっと広がるかも…
(マグを置いて、真顔で)
だからこそ、我々は考えねばならん。
“自由”とは何か。
“公平”とは何か。
そして、“共同体”とは、誰が支えるべきものなのか──
ナレーション(読者の皆様への問いかけ)
あなたならどう裁きますか?
契約していない土地所有者に、管理費を請求することは“正義”か、それとも“過剰な干渉”か──。
もふん補佐官の独白
蛍光灯の音が、かすかに響いている。
資料を読み終えたもふん補佐官は、ホワイトボードの前に立ち、しばらく沈黙していた。
そこには「契約してないのに、なぜ払う?」と赤いマーカーで書かれている。
「たしかに、契約してないのに請求されるって、違和感ありますよね。
でも…誰も住んでない土地にも、街灯が灯ってて、道が整備されてて、
夜に誰かが見回ってくれてるって思うと──それって、すごくありがたいことだと思うんです。」
彼は、ホワイトボードの端に小さく「恩恵」と書き足した。
「法律って、損得だけじゃなくて、“気づき”を促すものでもあると思うんです。
誰かが守ってくれてることに気づいたとき、
『契約してないから関係ない』じゃなくて、
『少しでも支えたい』って思えるなら──それは、優しさの話なんじゃないかなって。」
もふん補佐官は、資料をそっと閉じた。
その表紙には、判決文の一節が印刷されていた。
「共同体の維持に必要な管理業務によって、土地の価値が保たれている」
彼はそれを見つめながら、静かに言った。
「誰かが灯してくれている光に、気づけるかどうか──
それが、この判例のいちばん大事なところかもしれませんね。」
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