登場人物
- 雄介(58歳):定年間近。金融機関勤務、真面目で実直。人生の目標は「家を建てて、妻に安心な老後を残す」ことだった。
- 由美(56歳):専業主婦からパートへ転身。子育て後も家計管理を担い、夫とともに築いた家庭に誇りを持っていた。
25年前、ふたりは結婚した。
将来を見据え、共働きで少しずつ貯金し、35年ローンで郊外に一戸建てを購入。ふたりの夢が詰まった家だった。
「子どもたちに個室を持たせたい」
「老後はこの庭で日向ぼっこを」
そんな話をしていた。
ローンは厳しかったが、雄介の退職金を織り込めば完済は可能なはずだった。
しかし、10年後。転勤や景気変動、子どもたちの独立、周辺の開発遅れで家の資産価値は急落。
不動産会社に査定を依頼すると、ローン残高よりも300万円も低い評価だった。
「この家、売ってもローンが残るってこと?」
由美の声が震えた。
雄介は笑顔で答えた。「退職金でまかなえるさ。だからこそ、この家を建てたんだ。」
でも、その頃から少しずつ夫婦の会話は減っていった。
定年退職目前。由美が切り出したのは、離婚だった。
「もう夫婦としての会話がない。一緒にいる意味がわからない。」
雄介は驚いたが、受け入れるしかなかった。
財産分与が問題となった。
- 家はローン残高3000万円に対し、評価額2700万円。オーバーローン状態
- 雄介の退職金見込額は1000万円
由美の主張はこうだった。
「家の価値はゼロ。でも退職金は純粋なプラスだから、そこから私の取り分500万円をもらいたい。」
雄介は黙ったまま裁判を選んだ。
判例(東京高裁令和6年8月21日判決)
事案の背景
- 離婚に伴う財産分与が争点。
- 夫名義の自宅不動産はオーバーローン状態(ローン残高が不動産評価額を上回る)。
- 他に共有財産といえるのは、夫の退職金のみ。
- 妻は「家は価値ゼロだから除外し、退職金だけ分与してほしい」と主張。
⚖ 裁判所の判断
原則:通算方式
- 財産分与は、夫婦が協力して得た全財産(資産+負債)を通算して評価するのが基本。
- よって、退職金だけを切り出して分与するのは不公平。
- この事案では、全体としてマイナスのため、分与すべき財産は存在しないと判断。
例外の可能性
- 高裁は「一切の事情」(民法768条3項)として、例外的に個別評価する余地もあると示唆。
- 例えば:
- 不動産を取得できない側が退去を余儀なくされる。
- 他方がローン返済を続けて最終的に利益を得る可能性が高い。
- ただし本件では、妻が自ら退去しており、退職金の支払いも不確定だったため、例外は認められなかった。
🔍 判例のポイント
観点 | 内容 |
---|---|
財産分与の原則 | 資産と負債を通算して評価する「通算方式」 |
妻の主張 | オーバーローン不動産を除外し、退職金のみ分与 |
裁判所の判断 | 全体がマイナスなら分与なし。退職金単独分与は不公平 |
例外の可能性 | 一方が不動産を取得し利益を得る蓋然性が高い場合など |
本件の結論 | 妻の請求は却下。控訴も棄却 |
こぱおの法律研究室
🧪こぱお博士(眼鏡を押し上げながら)
「むむっ…これは非常に興味深い!住宅ローンが残っているのに、退職金だけを分けようとは…なんと都合のいい話だ!」
🐾もふん補佐官(机にほおづえをつきながら)
「でも博士、奥さんの気持ちも分かるもふぅ。家はマイナスだけど、退職金はプラス。だから“そこだけちょっと”欲しいって…もふっ」
🧪こぱお博士
「“ちょっと”で済まされるなら、財産分与はお菓子の袋分けと同じではないか!我が研究所では、財産全体を通して評価する“通算方式”を尊重するのだ!」
🐾もふん補佐官
「じゃあ、家は残念賞扱い…ってことですか?ローン付きの家をもらって、退職金はナシ…は切ないもふ」
🧪こぱお博士
「切ないが、公平である。資産と負債の通算、それが法のバランス。もし家を得た人が将来的に価値を回復させたなら、それは離婚後の努力であって分与対象ではない!」
🐾もふん補佐官(ぽつりと)
「でも…結婚生活って、利益だけじゃないもふ。『私もこの家を一緒に育てた』って気持ち、数字じゃ割り切れないもふよ…」
🧪こぱお博士(一瞬黙ったあと、小声で)
「……その通りだ。だが、我らが実験では数字と法理を扱う。感情の評価は、次の研究課題としよう。」
🐾もふん補佐官(ニッコリ)
「じゃあ、“情と法の境界”ってテーマで、次回の研究、決定もふ!」
こぱお博士の法的アドバイス
🧠 「夫婦で築いた財産は“全体”で評価せよ!」
離婚に際して、“この財産はプラスだから分けて、こっちはマイナスだから除外して”という主張は、極めて危うい!
財産分与の本質は「夫婦の共同成果の清算」にあり、都合の良い“切り出し分与”は認められぬのだ。
📉 「不動産がオーバーローンなら…それも共有の『重荷』」
住宅ローン残債が評価額を上回っていても、それは夫婦の共同生活の産物。
分与対象から除外するには、特段の事情が必要となる。
判例に照らせば、“不動産を取得できず、退去を余儀なくされる側”にとって不利な状況であれば、例外的配慮もあり得るが——それは厳しく審査される。
💰 「退職金も単独評価ではなく、全体との関係で考えよ」
退職金は“将来得られる利益”として評価されがちだが、離婚時点での確定性や他の財産とのバランスが重要だ。
単純に“退職金=分与できる財産”と捉えるのは誤解である!
📜 「法は感情を排除しないが、冷静に衡量する」
財産分与は感情の清算ではなく、法的かつ経済的な公平性の追求。
判例は、通算評価原則と例外の範囲を整理し、実務における運用指針を提示している。
「退職金だけ分けたい?それでは法の秤が傾いてしまう。財産は“通算”、清算は“公平”——それがこぱお流法的均衡の真髄なのだ。」
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コーヒー代 300円🐾もふん補佐官の見解
「マイナスの財産だって、ふたりで背負った重みもふ」
えっと…今回のケース、退職金だけ分けてほしいっていう気持ち、なんか、ちょっと…わかっちゃうもふ。
だって、オーバーローンの家って、数値で見たら“価値ゼロ”みたいに扱われるもふ。
でもその家って、ふたりで選んで、ふたりで住んで、たくさんの“これまで”を詰め込んだ場所もふよね。
そこに、子育てとか誕生日とか、雨の日に外の音が気になって話し込んだ夜とか…いろんな「暮らし」があったはずもふ。
それが突然「マイナスです」って言われるの、ちょっとつらいもふ…。
退職金は、たしかに将来の備えで、現金として見やすいけど、
夫婦が一緒に過ごした「時間の成果」って、どっちが働いたかじゃなくて、どう支え合ったかのほうが大事なんじゃないかなって思うもふ。
でも、法律ってちゃんと「全体で見よう」って言ってくれるから、
オーバーローンも、退職金も、両方合わせて考える。それって、ちょっと厳しいけど、正直で公平な見方なのかなぁ…もふぅ。
財産分与って、通帳の数字よりも、過ごしてきた毎日の重みを感じながら考えたいですよね。
法律は冷たいようでいて、その冷静さで“公平”を守ろうとしてる。なんか…それって、優しさのかたちかも。
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