闇バイトで共犯に?電子計算機使用詐欺罪の判例から考える“知らなかった”の責任

法律×キャラ解説

「ATMの前で、彼は立ち尽くしていた」

その夜、藤沢駅前のロータリーには、秋の風が吹いていた。

駅ビルのガラスに自分の姿を映しながら、健太はスマホを握りしめていた。

50万引き出したら、1万渡す。簡単な仕事だよ」

そう言われたのは、匿名掲示板で見つけた“バイト”の募集だった。

彼は大学を辞めていた。

母親には言えず、奨学金の返済通知だけがポストに積もっていく。


「ATMの前に立って、カードを入れて、金を引き出すだけ」

それだけなら、誰にも迷惑はかけない。

そう思っていた。

だが、ATMの画面に表示された金額は、異様だった。

50万円

見知らぬ口座から送られてきた金。

その瞬間、健太は思った。

「この金は、誰かの“生活”だったんじゃないか?」

彼は振り返った。

駅のベンチには、年配の女性が座っていた。

その手には、保険証と通帳。

まさか、と思った。

その夜、彼は金を引き出した。

そして、警察に出頭した

裁判では、彼の「知らなかった」は通じなかった。

「詐欺によって得られた金を引き出すことを認識していた」

それだけで、共謀共同正犯が成立する。

判決文には、こう書かれていた。

被告人は、電子計算機使用詐欺罪の共謀共同正犯として有罪

だが、健太の心には、別の判決が刻まれていた。

「自分は、誰かの“老後”を奪ったのかもしれない」

その問いは、今も彼の中で、答えを待っている。

判例解説:電子計算機使用詐欺罪の共謀共同正犯(最高裁令和7年7月11日判決)

事件の概要

・被告人は、詐欺の具体的内容を知らなかったが、「不正な金を引き出す」ことは認識していた。

・被告人は、匿名掲示板で「高額報酬の簡単なバイト」を見つけ、指示役と連絡を取る。

・指示に従い、コインロッカーからキャッシュカードを受け取り、ATMで現金を引き出す。

・引き出された金銭は、詐欺グループが高齢者を騙して送金させたものであった。

問題となった法的構成

電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
  • ATMなどの電子機器に虚偽の情報を入力し、財産的利益を不正に得る行為。
  • 本件では、被害者がATMを操作して送金したが、その操作は詐欺によって誘導されたもの。
共謀共同正犯(刑法60条)
  • 複数人が犯罪の実行を共謀し、各自が役割を分担して犯罪を遂行した場合に成立。
  • 被告人が詐欺の実行者ではなくても、「詐欺によって得た金を引き出す」ことを認識していれば、共謀が成立する可能性がある。

裁判所の判断

  • 被告人は、詐欺の詳細を知らなかったが、「不正な金を引き出す」ことは理解していた。
  • 指示役とのやり取りや報酬体系(50万円ごとに1万円)から、犯罪性を認識していたと推認
  • よって、詐欺グループの一員として、電子計算機使用詐欺罪の共謀共同正犯が成立すると判断

実務的な意義

  • 闇バイトの危険性が明確に
    「知らなかった」「ただの出し子」は通用しない。刑事責任を問われるリスクが高い。
  • 若年層への警鐘として機能
    SNSや掲示板での「簡単な高収入バイト」は、重大な犯罪に巻き込まれる可能性がある。
  • 法教育の必要性が浮き彫りに
    犯罪の構造や責任の範囲を若者に伝える教育が急務。

哲学的な問いかけ

  • 知らなかった」は、どこまで許されるのか?
  • 金を引き出すだけ」は、誰かの人生を奪う行為になり得るのか?
  • 法は、無知と無関心にどう向き合うべきか?

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地下二階雑談室スキット:「それって、共犯ですか?」

(場面:地下二階。蛍光灯が少しチカチカしている。こぱお博士はホットミルクを片手に、もふん補佐官は湯たんぽを抱えてソファに沈んでいる)

もふん氏、今日はなかなか興味深いぞ。
電子計算機使用詐欺罪共謀共同正犯だ。

また難しい言葉…。
それって、ATMでお金引き出しただけの人が、詐欺グループの一員って認定されたやつですか?

そうそう。
彼は“出し子”だった。
詐欺の内容は知らなかったが、報酬体系からして“何かヤバい金”だとは分かっていた。
裁判所はそれで共謀成立と判断した。

でも博士、知らないって言ってるのに、共犯になるの?
それって…怖くないですか?

法は“知らなかった”より“知っていたはず”を重く見る。
行為の社会的危険性と、本人の認識の程度が鍵だ。

でも、彼は大学辞めて、奨学金返せなくて、掲示板でバイト探して…そんな人に“法的認識”を求めるのって、ちょっと冷たくないですか?

冷たいかもしれんが、法は“感情”ではなく“構造”で動く。
だが、君の言う通り、そこに“倫理”が必要だ。

じゃあ博士、こういう若者を救うにはどうしたらいいんですか?

教育だよ、もふん氏。
法教育。
簡単なバイト”の裏にある構造を、物語で伝えるんだ。

じゃあ、この記事の最後にこう書きましょう。
“あなたなら、ATMの前で何を思いますか?”って。

いいねぇ。
読者参加型の問いかけ。
法は遠くない。
地下二階からでも届く。

(蛍光灯が一瞬だけ、静かに明るくなる)

もふん補佐官の見解:「“知らなかった”の奥にあるもの」

「博士、
たしかに、法は“知らなかった”じゃ済まされないって、わかってます。

でもね、
知らなかった”って言葉の奥には、
誰にも相談できなかった”とか、
自分の価値を信じられなかった”とか、
そういう、もっと深い孤独がある気がするんです。

ATMの前で立ち尽くしたあの子は、
きっと“悪いこと”だって、どこかで気づいてた。
でも、それよりも“生きなきゃ”って思ったんじゃないかな。

だから私は、
法的責任”を問うだけじゃなくて、
どうしてそこに立たされたのか”を、
一緒に考えてあげたいんです。

それが、法務補佐官としてじゃなくて、
ただの“もふん”としての、願いです。」


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